体操 内村航平となでしこ 佐々木則夫監督

体操男子個人総合で金メダルを取った 内村航平選手のコメント「やっと 自分が自分であることを証明できた」 この言葉の意味は深い。内村選手は競技途中に、リスクの多い技をあえて省き、演技構成を巧みに変えてきた。これを見たライバルたちは「内村は余裕で優勝するつもりだ」と、プレッシャーを感じたに違いない。そして競技後には「もはや彼には絶対敵わない」と思ったことだろう。それを計算してできるあたりが、内村選手の本当のすごさなのかもしれない。

団体戦が銀メダルで終わった時、彼は「今まで何をやってきたのだろう。二位でも四位でも同じだ。」とつぶやいた。それは 今までの努力が報われなかったという意味ではなかったはずで、内村選手が何年もかけて描いたシュミレーションが崩れた事を表現してるのだ。そして、そのイメージ修正まで視野に入れてのぞんだのに、それを果たせなかったことを悔やんだのである。つまり、彼にとっては、メダルよりも 自身が描いたイメージを100%実現することのほうが重要であって、何位だったかなんてのは 関係なかったのだ。

事前に報道された ライバル選手へのインタビューでは、みな口々に「金メダルはどうせ内村選手さ」という声が聞かれた。その理由は 彼が世界選手権を三連覇しているからではない。その類まれなる戦術眼と目的遂行能力のゆえであろう。事業家でも十分通用するほどの自己マネジメント能力を備えた 若きエース。内村選手が自分であることを証明し続ける限り、当分 彼の時代は崩れそうもない。

また、オリンピックで 他に注目したのは 女子サッカーなでしこジャパン佐々木則夫監督の素晴らしさについてである。彼が監督だったから ワールド・カップで優勝できたのだろう。さすが 昨期の最優秀監督である。決勝へ進めるのが確定した後ゆえに、主力を休ませて望んだ試合で、なかなか点が取れない時間帯が続いた。そこで彼は選手に「引き分け狙い」を指示する。もちろん世間では「次戦の移動距離の有利さから戦術的に」と指摘されてるが、筆者はそうではないと考える。彼が重視したのは、試合環境ではなく、選手たちのプライドを失わさせないこと。控え組に自信を持たせ、意欲を萎えさせないためには 「監督が引き分けに持ち込めと指示したから自分たちは勝ちたかったけれど、わざとそうした」 そういう事にしておくのがベストと判断したわけだ。そのためには自らが悪者になっておく。そんな 強い目的遂行能力が見て取れた。当然、選手たちはわかっているから、意気に感じ、次戦は奮起してくれるはずである。優秀な選手や指導者にも 哲学は必須だ。それは自尊心とか犠牲心とか、そんな単純なものではない。人をよく見て、よく知り、それらを自然科学的に把握しながら、自他ともに 成果へと導くことである。努力や根性なんて曖昧なものでは、仕事も競技も楽しめるはずがない。